経営再建中の日本航空のロンドン支店とのやりとり

会社更生手続きで経営再建中の日本航空。今回同社ロンドン支店と大変興味深いやりとりをさせて頂きました。

観光振興、日本へのインバウンドビジター増加に懸命なNIPPONにとっても一般的な関心のあるケースと思い、ご紹介させて頂きます。


私の娘はストックホルム在住で5月に休暇で来日することになりました。日本の航空会社は海外在住者にYokoso Japan Fareという国内線の割引料金制度を設定しており、日本航空(ロンドン支店)がすすめてくれたので予約し、手続きをしていたのですが、「スウェーデンに居住している証明」について、何とも不可解で杓子定規の要求をされ、正直なところ嫌気がさしました。

日本航空ロンドン支店の担当者はこの割引航空券の発券の条件として「免許証、官公庁、銀行からの書類、公共料金の請求書等で、娘がスウェーデンに在住していることが証明できるもの」を要求されました。(ご参考までにスウェーデンの免許証には現住所は記載されていません)

 

娘は手元にある資料が限られているコテージに居たこともあり、手元にあったスウェーデンの4月分の給与証明を日本航空にメールしました。この給与明細にはもちろん娘のストックホルムの住所、社会保険関連情報など含まれており、娘がスウェーデン在住者であることは疑いの余地がありません。

 

すると担当者から私に電話があり、「給与明細は証明書類としては受け付けられない。上司とも相談した結果です」との連絡。私は、内容を読んで理解してもらえば一目瞭然と思い、「スウェーデン語が問題なら日本語、英語などに翻訳致します」と申し出ました。担当者は「弊社には欧州各国語の出来るスタッフがいますので、言葉は問題ではありません」との回答。

 

そこで私は別の方法を思いつきました。普段利用しているストックホルムの旅行代理店にこの国内線の割引航空券のみを発券してもらうやり方です。この旅行代理店に電話してみたら、「日本行きの往復国際線航空券番号が分かれば問題なく発券できます」との回答でした。つまり日本航空ロンドン支店の杓子定規の対応が、制度や役所の指示等によるものではなく、同社のユニークな社風が原因でありそうなことが判明したのです。観光庁の知人の話では、少なくとも観光庁にはそこまで制度の運用に関わる権限はないとのことです。

 

最終的には娘がファクスした「電気料金の請求書」で期限ギリギリに日本航空は発券を許可しました。電気料金は海外在住者でも不動産所有者なら支払いが出来るので、この請求書が給与証明よりも信頼されるのは全く不可解です。

 

今回のやりとりで私が感じたことは以下です。


・Yokoso Japan Fareは「インバウンドビジター」の増加を目指すものとすれば、少なくとも今回の日本航空ロンドン支店の対応は、その趣旨を全く理解されておらず、たとえば娘も私も「2度とこんな制度を使って訪日はしない」と思わされてしまっております。

・今回の日本航空の対応が、「会社更生手続きで経営再建中の日本航空の特殊事情」によるものである可能性もあります。(たとえば厳しい制度の運用を要求されているかもしれません)その場合は、日本航空にとっては、「経営の再建」が最重要課題であると思います。ただ、少なくとも今回の対応で経験したロンドン支店の担当者は、企業の最重要課題が全く理解されておらず、制度の「杓子定規的適用」のみに時間を充て、クリエイティブな問題解決の発想は全くありませんでした。わずか2万円程度の今回の案件の航空券でも、担当者が自分では判断出来ず、しかも何度も国際電話をしたり、という状況は信じられません。「そんな時間があれば、深刻な会社の再建を少しでも考えたらどうですか」と申し上げたいものです。いずれにしても、再建への道は遠い、と実感させられますし、インバウンドビジターにとっては日本航空の与えるマイナスイメージは大きいと思います。

 

・スウェーデンの世界一の家具小売り企業イケアが船橋に日本の第一号店をオープンした時に、スタッフに日本人の応募者が殺到しました。同社のダールビグ社長はスウェーデンの新聞の取材に答えて、「社員には自分で問題を解決することを要求する。いつもマニュアルがあるとは限らないが、日本人はそう考えていない人も多いようだ」と述べています。(Dagens Nyheter 2006-4-25)

 

今回の日本航空ロンドン支店の担当者もまさしく「マニュアルオンリー。自分では考えない」タイプです。日本国内ではなく、ロンドン支店ですらこの状況では、日本航空の再建は暗雲、という印象を実感させて頂いやりとりでした。